1) 事業の概要
ニンジンは2016年9月から、ウランバートル市で障害のある子どもの親が作ったゲゲーレンセンターとサインナイズセンターで「モンゴル障害児療育・教育支援及び療育関係者育成事業」を始めました。
医師、理学療法士、作業療法士、元養護学校教員、保育士(2018年9月より)等の専門家と経理担当者が、親たちにどのように子育てをするか提案し、共に実践することに重点を置いて来ました。また、モンゴル人の療育関係者に働きかけて、2センターを支援する連携体制を作り出すことを目指しています。2019年8月の事業終了時には、障害児センターモデルを関係省庁に報告する予定です。
この事業は障害のある子どもたちが家庭に閉じこめられずに、障害児センター、幼稚園、保育園、学校に入り、社会参加を実現することを上位目標として立てています。
2)経過
2センターの活動は既に、2014年には始まっていました。障害のある子どもを抱えている家族が孤立せず、共に活動できる場所を得ることができましたが、草の根事業開始当時、どのように子どもを育てていくか手探り状態でした。
1年目は渡航時に、理学療法士がそれぞれの脳性麻痺児にあった家庭療育の方法を指導し、また、センターに集まって一緒にできる体操を、親たちに実技指導しました。教育では算数問題プリントを段階に応じて準備し、絵本を2センターに併せて100冊寄付して読み聞かせ活動を始めました。
両親が働いている等さまざまな理由から、家庭で自主的に継続することが困難だったため、2017年10月からは、毎週土曜日に親子がセンターに集まり「草の根の日活動」を行うように提案しました。2人のモンゴル人現地補助員(日本の教育大学を卒業した編集者および看護師)を月に1回ずつ両センターに派遣し、共に活動をしています。別の日には、親の集いを行って、親たちが学習し、情報交換をします。
2センターの親子に以下の変化が見られました。
① モンゴルでは「脳性麻痺を治療する」という考え方で伝統医療を含む、さまざまな治療を受けている子どもが多かったのです。2007年に健康医科大学に理学療法学科が設置され、2018年までに147人が卒業していますが、成人のリハビリテーションに従事する者がほとんどで、小児の専門家は不足しています。また、親は子どもを理学療法士に委ねて「治療」してもらう考え方でした。
ニンジンチームは脳性麻痺を「治療」するのではなく、姿勢コントロールと食事指導を中心に、子育ての中で、発達を促す運動や保育遊びを通して、日常生活を豊かにする方法を指導しました。専門家に委ねるのではなく、親達が家庭で日常的に実践するように家庭療育の必要性を提案しました。参加したメンバーは、脳性麻痺は伝統医学をはじめとする医療で「治す」のではなく「療育が基本」を体得して、他の親に啓発活動を行う展望を持つようになりました。
② 草の根の日活動に参加している学齢児の内、8割が普通学校、または特別支援学校に通っています。算数の計算問題を学習して来た子どもは、進度に違いがあるが、熱心に取り組んでいます。「勉強は面白い?」という質問に対して「なぜそんな質問をするの?当たり前じゃない」という返事が聞かれました。特別支援教育を必要とする子どもに対して、理解に沿った指導計画を立てていく必要を指摘したいと思います。
③ モンゴルでは幼児に絵本の読み聞かせをする習慣がありませんでした。障害のある子が絵本の読み聞かせを喜ぶ姿を見て、親も絵本の役割を認識するようになった。親が子どもに、大きい子が小さい子に読み聞かせる姿が日常的になっている。読み聞かせが、年齢を問わず、障害のある子にもない子にも、豊かな世界への扉を開くことを発信していく貴重な経験となりました。
④ 2018年9月から保育士が参加し、2センターでの集団保育を実践し、家庭で使える教材の紹介をしました。子どもは遊びの場に参加して、楽しみながら交流し、親たちは家庭で遊びながら学べる教材づくりに、熱心に取り組みました。 ④ 2018年9月から保育士が参加し、2センターでの集団保育を実践し、家庭で使える教材の紹介をしました。子どもは遊びの場に参加して、楽しみながら交流し、親たちは家庭で遊びながら学べる教材づくりに、熱心に取り組みました。
⑤ 障害があると診断されてから、子育てを相談する機関が見つからず孤立して来た親子が、定期的に草の根の日に顔を会わせ、親の集いで闊達に話しあい、親同士の情報交換や子ども同士の仲間意識が生まれてきました。親が「今日は行かない」というと泣く子がいるとの報告がありました。
3)モンゴル人療育関係者との連携
草の根チームが実践している内容をモンゴル人療育関係者に伝えて、センター活動に支援を要請するために以下の活動を行っています。
① 渡航時に療育者関係者養成セミナーと実習、家庭医・看護師セミナーを実施し、脳性麻痺児の療育および、第一次医療機関スタッフの障害のある子どもへの理解と支援を促します。
② 草の根参加メンバーの手帳を作成します。医師が医療情報、理学療法士が療育指導内容、教員が教育内容、保育士が保育の課題等を書き込んで、モンゴル語に翻訳してもらいます。親、療育関係者、保育者、教師、医療関係者が情報を共有して、子どもたちの社会参加に向けて活用できるように作成しています。
③ モンゴル理学療法士協会と連携して、2018年10月からモンゴル健康医科大学理学療法士学科の4年生と、すでに子どもの施設で働いている理学療法士ボランティアが草の根の日に2センターを訪問して活動しています。
④ 2つのセンターで親子が孤立せずに、希望を持って子育てをしていくことができるようになった活動の経過を、労働社会保障省をはじめとする省庁に報告し、地域に根ざした障害児センター活動のモデルとして、モンゴル全体に広めていく提案をします。
⑤ モンゴル教育大学学前教育学部から、インクルーシブ保育コースを設立するための支援依頼がありました。ニンジンの活動は障害児センターの親子指導に集中してきましたが、今後は障害児センターを出て子どもが地域の幼稚園、学校に入っていける道筋を現地の関係者とともに見出して行きたいと考えています。(文責:梅村浄)