PT諸石真理子 2019/12/26
JICA草の根事業のチームとして、療育担当をさせていただきました。
この事業以前に、ニンジンの「モンゴル障害者支援事業」として、2012年から「モンゴルへの障害児療育専門家訪問団」に参加させていただき、2015年5月まで年に1~2回の渡航で活動いたしました。多くの障害児子育て中の親御さんたちに出会いましたが、「この子をなんとかしたい、どうしたらいいか?」の求めにその場で応えることでした。
てんかん重責状態で、夜も眠れないご両親からの相談は、訓練どころではないお子さん、緊張が強すぎて、安定した姿勢がとれないで困っている、または、おすわりがいつまでもできないで不安になっている親御さん、重度のお子さんでも経口摂食の方法しか選べず、専門指導が不可欠なお子さんなど。親御さんにできる方法をその場で練習してもらい、家で取り組む方法を伝え、不安に応えました。しかし、1回の応えで解決する実情ではないことが、大きな課題でした。
- <療育モデルの芽生え>
2016年9月から、JICA草の根事業3年間8回の渡航方法の機会が得られました。 8倍の応えの機会が作れるばかりか、さらに同じ障害児とその親仲間とのグループ活動が育つチャンスを得て、取り組むことができました。
ゲル地区のチンゲルティ区とバヤンズルフ区のセンターに集う親たちのリーダーは、どちらも脳性麻痺児を子育て中の母でもありながら、小児リハの知識と技術を自ら習得して、親仲間を助けたい熱意で一貫した姿勢を示されました。
その姿勢が、他の親たちにも良い影響となりました。個別のホームプログラムは、自分たちが頑張る。センターに集った時は、子どもたちの楽しい運動と友達との遊び場となるように、親たちが協力して活動を創る。知らず知らず親たちに楽しい交流が生まれ、若い親にはアドバイスの声かけ、子育ての苦労話が飛び交う互いの発散の場となり、親の集いとして楽しく成長していきました。
ゲル地区は生活が極貧の家族が多く、いろいろな事情でセンターに通ってきます。
チンンゲルティ区ゲゲーレンでは、ストレッチのやり方を熱心に覚えて家でも実践したい気持ちがある母親も、年下の子どもたちの世話や家事に追われ、時間が作れない現実がありました。 別の家族は、両親共働きで、祖父母が交代でセンターに連れてきて、足が変形しないようにと、教えられたことを家でも真面目に取り組んで、毎回通って来られました。離婚した家族は、父親が息子を1回も休みなく連れてきて、「個別指導の時間」「グループ体操や運動遊びの時間」に、いつもの顔ぶれとして、存在感があり、次第にセンターの活動が療育活動として拡がりました。
バヤンズルフ区サインナイズセンターでは、リーダーが教師歴のある方でもあり、若い親で幼児の障害児相談が増えており、小児リハの対応をセンターとしてできるように取り組みたい意向でスタートしました。通ってくる家族の中には、国立第10 幼稚園や民間の通園施設を利用しながらも、センターに通ってきたい熱心な父親や母親によって、親たちの交流と親睦が培われ、集いの日には、自ら集まる習慣が築かれていきました。
- <モンゴルPTの実状>
脳性麻痺児を主とする障害児療育グループ活動の継続のために、小児専門PTと保育士が不可欠です。モンゴルでは、2007年からPT養成学科が設立され、2010年から1期生が輩出しています。しかし、小児リハの課程が現在まで確率されてなく、小児実習単位も不十分の実態で、主に成人リハに従事している実情です。従って、2012年から渡航時、国立母子センターで、小児リハの研修会を実施して1期生から、脳性麻痺の知識と技術を補ってきました。
草の根事業からも、「療育者養成セミナー」として7回実施し、親へ寄り添い、指導できるPTの養成を目的としました。 資格のあるPTが10期生まで輩出されてはいますが、施設現場の実情として、ウランバートルでも地方でも、PTの仕事を必要に駆られて行なっている人たちは、無資格者がほとんどでした。従って、セミナーに熱心に受講する平均30 人の7割が無資格者でした。小児リハの専門知識を学び、自分たちの行なっていることに誤りがないか確認したい受講姿勢が伺われました。セミナーの座学と合わせて、療育モデルの2センターで、セミナーで学んだことの実習を、受講生に促しました。ゲル地区に熱心に足を運んで実習したのは、無資格者がほとんどでした。資格を持ったPTは知識だけで「できる」と勘違いしているようです。プライドで仕事ができていると思い違いしているレベルでは、親は信頼しないし、子どもは笑顔で相手してくれません。
7回シリーズのセミナーでは、テーマに基づいて知識と技術をデモンストレーションを通じて講義するのが精一杯で、「勘違いの実状」を意見交換する機会を作れなかったことが、反省です。 モンゴルの有資格者PTが、今後障害児の親子と向き合う時、親の苦労の理解者となり、子どもから学ぶ姿勢で専門性を極めて行くように願っています。
PT諸石真理子 2019/12/26
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